Challenge 2024
2024年 マン島TTレースに参戦して
今年もマン島TTレースチャレンジにご協賛いただき、誠にありがとうございました。
皆様の応援のおかげで、無事に完走することが出来ました。
今年は、今まで参戦したマン島レース(マンクスGPとTTレース)8戦のうち、一番緊張していました。それに気付いたのは、レースが全て終わってからでした。
実は、決勝ヒート1の3日前からお腹の調子が悪く、当日の朝から下痢になっていました。
しかし、2つの決勝レースが終わったら、すぐにお腹が治りました。
今までの30年のレース人生の中で、初めての経験でした。
撤収も終わり、帰国する前日に必ず立ち寄る、フェリー乗り場が見える公園に行きました。
思えば、この公園は当初、コネクションもお金もなく、熱意しかない自分が、TTレースに出られるのかを直接主催者に尋ねるために初めてマン島を訪れた時に車中泊した公園です。夜になるとレンタカーをこの公園に停め、朝になるとオフィスの前で主催者をウィーク中、待ち続けましたのものでした。
レースのスタート地点でもあるこの公園で、レース仲間であり個人スポンサーでもあるKさんとのやり取りをしたのを思い出しました。Kさんは今年初めてマン島レース観戦に来られたのです。
Kさんが「皆が楽しんでいるレースなんだね」と言ってくれた時に、「人生かけて真剣にやっているのに楽しんでるわけないじゃん」と、感情が動き、心がざわつきました…。
その事を仲間に話したところ「褒めてくれてるのに、気付かないの?」
「真剣にやってるからこそ、そう見えたんだよ。真剣の先の楽しさだよ。
皆楽しんでたよ。山中さんは楽しんでなかったの?」と、言われました。
そこでやっと気が付きました。楽しんでいなかったなと…。
今まで「どうしたら速くなれますか?」と聞かれた際には、
「一生懸命やれば楽しくなるし、楽しく走れば速くなるよ。結果は後から付いてくるから」と、言っていた自分なのに。
今年は「楽しむ」という言葉自体も思い浮かばないほどに遠かった。タイムと順位。結果を出すのに必死過ぎて…。
というのも、今年はスーパーツインクラスしか走れず、これまで走っていたスーパースポーツクラス(600cc)に走るには、最低でもブロンズトロフィーを獲得しなければならないと思っていたからです。
結果、ブロンズトロフィーは獲得出来ず、昨年のベストタイムも更新出来ませんでした。
昨年2023年は、タイムを出そうと必死になっていなくてもタイムが出て、ブロンズトロフィーを獲得しました。
その前年2022年は、マン島出発前に右足骨折、マン島内サーキットでも右手骨折し、レースの結果は招待基準ギリギリでした。だからこそ、2023年は、TTレースを走れる事に感謝の気持ちと、もうこれで最後のレースになっても今まで全力を尽くしてきたのだから、それは受け入れようという覚悟のもとで走っていました。
今年は、「来年も走りたい。来年走ったら10年目。当初目標の10年一節。
10年続けたら1人前。自分にも人にもマン島ライダーと言える。だからこそ何としても走りたい。結果を出さなければ」と、焦りがあったのかもしれません。
出来る事を全力でやる事には何ら変わりはないのですが、
目の前の「今の、このレース」のために走るのか、まだ分からない来年のレースのために走るのか、では全然違うのだと今更ながら気付きました。
昨年まで、毎年毎年崖っぷちで、翌年のレースの事なんて考えられませんでした。その年の今のレースを全力で走りきることだけで必死でした。
このレースが最後となっても後悔しない。全力で走ったのだから、という覚悟があるかないか…
今年はその覚悟が持ちきれず、今のレースに自分のエネルギー全てを注ぎきれていなかったのだと反省しています。
30年のレーサー人生、「結果が全ての世界だけど、結果以外にも大事なことがある」というスタンスでやってきましたが、ちょっとしたきっかけや心の動揺で、結果をもとめて、今までの自分のスタンスを手放してしまう…自分は弱いなと感じます。
言い訳かもしれませんが、人間だからしょうがない。せめて手放してしまったことに気付けて、また持ち直せるようになりたいと思いました。
もし来年も出場できるチャンスがあるのならば、その時こそ、結果以外の大事なことを手放さずに結果がついてくることを信じて、臨みたいです。
まだまだ未熟な自分ですが、本当に皆様の応援が励みになります。
今後とも、変わらぬ応援を、何卒よろしくお願い申し上げます。
2024年8月
マン島ライダー
山中正之